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不定期更新しますですー

ダンガンロンパR・D chapte1(非)日常編 尊きヒンメル

樹「はーあ…」

何故に用意された部屋、用意されたベットに腰をつき、横になる。シャワールームも設置されてたから、怪しみながらもとりあえず入った。一応害はなく、水もちゃんと綺麗だったから、ひととおりシャワーを浴びて、今出たところだ。

…個室は、防音完備、隣がどんなに爆音を出そうが、こっちに聞こえることはないという。寝やすいだろうけど、音が聞こえないというのは、こんな状況だと、ほんの少し不安に感じてしまう。しかも監視カメラも個室にまでついてるし…落ち着いて寝れやしない。

樹「…にしても、今日は疲れたし、色々とわけわかんないよ…」

モノクマという謎の生命体にここで一生を過ごせだなんて言われて。入学早々とんでもないことに…いや、記憶を失っちゃってるんだっけか。私たち。

樹「…はあ。もう、夜なのかなあ。」

此処は白いドームに囲まれていて大空が見えない。そのせいで時間の把握が難しい。だけど、探索した結果、ホテルの外には、未来都市のような風景には似合わなそうなアンティーク時計が数えきれないくらいどこにもそこにも設置されていた。カメラやモニターと同じくらいに。チクタク、チクタクといくつもの音が重なった針の音がうるさかったけど、それはホテルの外だけの話。ホテルの中は全く時計の音が聞こえない。まあ、そりゃあ部屋の中まで聞こえたら耳障りでうんざりだよね。あ、時間の把握が難しいというのは、その時計が本当に本来の時間を示しているかどうか、怪しいということ。未知の場所に連れてこられたわけだから、全てを信用するのは危ういと、輝烈統さんはそう言っていた。


…あれから、ほんの数時間前、私たちは様々な場所を探索した。…そうだな、もう寝るし、色々と情報を整理しておこう。


数時間前 ーノルンホテル 3階 ー
樹「ぎゃー!!」

蓮楼寺さんに言われた通り、電子生徒手帳を自分の名前がカタカナで表示されているカードキーにかざすと、カードキーがピッと鳴り、淡く青く光った。機械に疎い私は、なにが起きたかさっぱり、微塵もわからない。

針「お、落ち着いてくださいですみかちゃん、入れるようになっただけですから」

樹「え…?あ、本当だ、入れる…」

すごい、さっきまでいくらドアノブをいじっても開かなかったのに!最近のドアってすごいんだなあ…!こんなのをかざすだけで鍵の開け閉めできちゃうなんて!!

針「ふふ、みかちゃん、すごく目がキラキラしてますねっ」

樹「うん!!すごいね!!最近の文明って!!私金属の鍵しか知らなかったもん!」

針「ふふふっ」

宝「…うるさ、あんたは過去タイムスリップしてきた貧乏人かなにか?このくらい、駅とかにあるでしょ。ないところもあるでしょうけど、見たことはあるはずよ。まあ、なかったらなかったで、それほど田舎なところに住んでるんでしょうけどね」

樹「なっ…!?」

宝錠さんの毒舌が身体に突き刺さる。…ぐぬぬ、みんなでここを過ごすということはこの人にも慣れないといけないわけでえ…ああ…私の精神メンタルが長く持ちますように…。宝錠さんと会うといつもこういう考えが頭をよぎるなあ。失礼ってわかってるけど、素晴らしいほど毒舌なんだもんこの人…

針「ふふ、そういえば、3階は私と宝錠さん、みかちゃん、輝烈統さんの部屋があるのですのね」

樹「各階には4つの部屋があって、1階は八夂ちゃん、音々ちゃん、伊瀬さん、密美津ちゃん、2階は蓮楼寺さん、入菊君、板是君、刻風…君、4階はズィヅさん、村田さん、墨尾さん、飛丸さん…だったよね、入菊君のメモを見た通りだと」

針「わわ、ざっと見ただけでよく全員覚えてましたね、すごいです!」

樹「え、そ、そそ、そうかな?」

うわああ、嬉しいな…超高校級のお方に褒められるだなんて…照れるなあ…まあ、そんなこと言ったら、「その程度で調子にのるなー」とか、宝錠さんに言われるんだろうけどね…。

宝「その程度で自惚れるなんてある意味可哀想な人ね」

わ、顔に出てた!?ていうか想像してたよりもっとキツいお言葉来たよ!?うう、もうちょっと優しい言葉かけてくれてもいいのになあ…どうしてこの人はこんな…ああ、やめやめ、また失礼な事考えちゃう。一般モブの私がすごい才能を持ってる人たちの中にいられるだけでもありがたいことなんだから、声をかけてもらえるだけでも感謝しないと…優しくて接しやすい、音々ちゃんのような人たちもいたから、その気持ちを忘れるところだった…
危ない危ない。

宝「何?めそめそ泣き始めて。その泣き声耳障りなのよ、うざい」

樹「さすがに酷いよおおおおおおお!!!」

宝「…あら」

逃げるように私は、部屋に入り勢いよく扉を閉めた。言葉の棘がまだ心臓に突き刺さっている。ううう、やっぱりこの人とやっていける自信ないってえええ…!

 

針「…言い過ぎじゃないですかっ、影羅ちゃんっ」

宝「出会ったばかりなのに気安く呼び捨てで呼ばないでよ、馴れ馴れしい…。」

針「うううっ」

宝「…で、言いたいことはそれだけ?ないのなら私も部屋に入って休みたいのだけど」

針「…い、いえ…」

宝「そ。じゃあね」

ガチャンッ。

針「……泣きませんよ、私っ。…あ、涙ってでるのでしょうか、私の場合…」

 


≪ノルンホテル前 ≫
あれから多分30分くらい経った後、私はなんとか精神メンタルを持ち直し、探索に復帰した。そうそう、私は落ち込みやすい性格だから、一度凹むと数十分は誰も近寄れないくらいくらーい顔をしていると、昔知り合いによく言われた覚えがある。

樹「うわ、ホテルの外、時計多いなー、しかも古っぽいアンティーク調の。にしても、飾るならこういう都会な場所ってデジタル時計の方が似合うと思うんだけど…」

『うるさいなー!クマのセンスにケチつけないでよもう!』

樹「ぎゃあああ!?でたああああ!?」

い、いつの間に背後に!?え!?え!?いつから!?

『もー、ボクを幽霊みたいにー…ひどいやあ、最近の若もんはー』

モノクマはお年寄りみたいなことを言い出して拗ねた顔をして地面を蹴っている。はあ、なにしにきたんだろう…あ、そうだ、聞けることは聞いてみるか。せっかく会ったんだし。

樹「ねえ、モノクマ…さん?」

こんなでも一応学園長らしいから、とりあえず『さん』付けで呼ぶことにした。

『ん?なあにー?ていうか、キミ、誰だっけー?』

もはや存在自体忘れられてたよ、あの時、屋上に集まってた時、いたじゃんか。あれ、そういやモノクマに無視されるのって2回目だよね。やっぱり印象というか特徴的なものがないから忘れられやすいってこと…?うう、自分で考えててなんだか虚しくなってきた。

樹「…樹力です」

もはや自己紹介する気力もない。脱力溢れるたった4文字の自己紹介だ。

『あー、そうそう、樹力サンね、いやあー、学園ゲームとかでどこにでもいそうな普通ー、のモブ顔してるから、特徴無さ過ぎて忘れてたよー』

サラッと言ったよ!!私が今悩んでることサラッと言ったよ!!もう!!もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいのになあ!!…なんてことは言えず、歯ぎしりをたてながら、モノクマの嫌味たらしい言葉を、しばらく聞いていた。

『で、そんなモブ顔の樹力サンがボクに何の用?』

樹「あ…うん、もう突っ込まないよ…で、モノクマさん」

ここはいったいどこか、どうして私たちがコロシアイをしなければならないのか、そんなことを聞いても、どうせはぐらかされるのだろう。なら、それらとは関係ないことを聞いて、そこからボロを吐かせれば…!

樹「わ、私たちって、ずっとここにいなきゃいけないんだよね。」

『はぁー、そうだよー?何回言ったらわかるのー?ていうか、そういう質問、もう聞き飽きたんですけど。』

樹「す、すいません、聞きたいことはそこじゃなくて…その、食べ物とか、飲み物とか、そういうのはちゃんとあるんですか?」

『うぷぷぷぷ、あるに決まってるじゃん!最初っから全員揃いも揃って餓死になっちゃあ面白くないしね。ただし、ホテル内にはないけどねー。』

樹「…さ、最初から?…まさか飢え死にさせるようなこと、する気じゃ…!?」

『さあー、どうだろうねえ?うぷぷぷぷ!』

樹「ちょっ…!?」

は、早めに食料確保しておこう…!!

樹「…で、ホテル内にはないって、どういうことですか」

『あのねー、ホテル内に食べ物を置いちゃってたら、ホテルから出ようとしない引きこもりがでてきちゃうでしょ!学園長のそれなりの配慮です!』

樹「は、はぁ…引きこもり…んで、その食べ物はどこに?」

『うぷぷぷぷ!さあねー!自分で探してねー!』

樹「えっ…ちょっ、まっ!…うう、またどこか行っちゃった…」

…神出鬼没な人(じゃないけど)だなぁ……ん?待てよ、早く食料がある場所探さないと、本当に飢え死にするんじゃ…やば!急ごう!…あ、でも、走ったりすると体力使うから、歩いて探そう…。

…っていうか!結局聞きたい事聞けなかったしボロ吐かせられなかった!うう、まあ、わかってたよ…こんな一般モブが、そんな探偵じみたこと出来るはずないよねえ…。

ミステリー、推理ゲームとかよくやっていたけど、やっぱり人はゲームのように思い通りにいかないんだなあ…。かっこよく謎を暴く探偵さん、数々の難解の嘘を生み出す犯人さんには憧れるけれど、そういうストーリー性のあるゲームの登場人物は、ほとんどが架空の人物であって、現実にはいない、現実世界の人間のこうなったらいい、こうでありたかった、という理想空想からできるものであって、それらになるなんて、無理に近い程、遠くて儚いものなんだ。…って、なにを難しいこと考えてるんだろ。らしくないなあ。

 

 

 

≪ノルンシティ街路地 1番街 ≫

飛「待ちやがれ!!この虫女!!」

密「ねー、ママー、なにこの猿。うるさいからどっかいこーよー」

板「け、喧嘩しないで!二人とも落ち着いて!」

輝「ふっ…蝶と猿の喧嘩か…実に面白い。」

板「いや面白がってないで止めるのに協力してよ」

…道端でなにやら青いなにかで汚れた飛丸君と密美津ちゃんが揉めているようだ。どうしよう、声かけようかな…?

板「…!あ!」

声をかける前に、助けを求める視線を送っている板是君と目が合ってしまった。どうしよう、うまく仲裁?できるかな私…

板「樹力さん助けて!」

樹「え、いや、なにがあったの?」

板「じ、実は…」

飛「こいつが!こいつが!ゼリー食ってたんだっ!!」

密「なあにー?それくらいで。ぼくがなにを食べようと自由じゃん。別に、食べるものを規制されてるわけじゃないんだしさあー。」

樹「え、食べ物見つかったの…?」

輝「いや?密美津の場合、希望ヶ峰学園に来る前から、ずっと持っていたようだ。」

密「賞味期限はなんか知らないけど消されてたー。あのモノクマがいじったんだろうね。はーあ。ママを返してもらったからいいけどさーあ。あのクマ好きになれないやー。ぼくの荷物ちょこちょこいじっちゃってさーあ。ま、味は食べれる味になってるから問題ないけど。」

樹「え…元から密美津ちゃんのだったら、確かに、何を食べようと自由なんじゃ…。」

もしや、よっぽどお腹が空いていて、あまりに空腹で食べ物を見せつけられてることに腹を立てちゃったとか?飛丸さんならそういうことで怒りそ…

飛「はあ!?おめーなに言ってんだ!!こいつ昆虫ゼリー食ってたんだぞ!?!?」

樹「ええっ!?」

板「…ほら、密美津さんの手元、見てみて」

板是君の言う通り見てみると、『こんちゅうぜりー』と、ひらがなで書かれている、カブトムシの写真が描かれた袋にたくさんのカラフルな小さなゼリーが入っている。…ほ、本当に食べてたんだ。冗談かと思ってた。

飛「おかしいだろ!昆虫ゼリーって体に悪いんだぞ!!俺様のにいちゃんが言ってたんだからな!!」

密「それは人間さんが食べるとでしょー、ぼくは虫だからおねーちゃんおにーちゃんと違って、体に害はないもーん。あ、もしかして欲しいの?」

飛「いらねーよ!!」

密「じゃあもういいでしょ。」

飛「んだよこいつ生意気な!!」

な、生意気なのはどっちもどっちじゃ…いや、言わないでおこう。もっと険悪な雰囲気になる。

板「飛丸君は密美津さんを心配して、怒鳴っちゃったんだよね?」

なるほど…飛丸君、口は悪いけど優しいところあるんだなあ…。

飛「ああ!?だあれがこんなクソ生意気で汚くてブスな虫女なんか!!気持ち悪い!!」

…口の悪さの度合が高い気がするけど。…あれ、じゃあ、飛丸クンについてる青いよごれはなんだろう。さっき、屋上にいた時は、身体は汚れてなかったと思うんだけど…。

板「ちょ、そんな過剰に反応しなくてもいいじゃんか…さすがの僕も凹むよ…」

飛「フン、男なのにメソメソ泣いてだっせーの!!シャキッとしろよ!あーあー、なんかムカつく!村田んとこ行って遊んでこよーっと!」

密「…ぼくもかーえろっと。ねむいし」

樹「…あ」

2人はそれぞれ背中を向け、密美津ちゃんはホテルへ、飛丸君はホテルがない方向へ走り出し、ちょっとコケたけどすぐ起き上がり、私たちの前から姿を消した。

 

 

輝「…痴話喧嘩とはこういうものか!」

板・樹「いえ違います」

輝「おや、違ったか」

板「だいたい、痴話喧嘩っていうのは…あ、樹力さん、ごめんね、いきなり助け求めたあげく…」

樹「あ、ううん、大丈夫だよ!ていうか、私なにもできなかったから!」

輝「全くだ。」

樹「そ、そんなドストレートに言わなくてもよくない…!?」

輝「おっと、失礼。そういえば樹力、貴様はなにか見つかったか?」

板「僕と飛丸君、密美津さん、輝烈統さんは、このあたりを詳しく調べたんだけど、特にめぼしいものはなかったよ。そうそう、僕たちの周りにあるビルのほとんどは、飾り物みたいなんだ。」

樹「飾り物?」

板「うん。あそこに窓があるでしょ?」

板是君は首を上げ、窓を指さす。

板「あれ、絵なんだって。モノクマが言ってた」

樹「絵ーーーー!?」

輝「ふむ、少し寒くなってきたな。」

板「うん、僕も…」

樹「え…?あっ!いや、ちが、上手い事言ったつもりはっ!!」

板「あはは、樹力さんって面白いね。で、僕らも最初は鵜呑みにしたわけじゃないんだ。…飛丸君に頼んで調べてもらったんだけど…」


ーーーーーーーーーーーーーーー
輝「これが、絵だというのか?確かに、騙し絵という絵は存在するが…本物の窓に見えるぞ。」

板「でも、すごーーーく上にあるから、間近でみないとなんとも…」

『うぷぷぷぷ、あれはただの鉄の塊を本物のビルに見せてるだけだよー。なんなら、飛丸クンが調べてくればいいんじゃない?キミ、超高校級の登り屋なんでしょー?』

飛「はあ!?んで俺様が!やだぞ!ただでさえ腹減ってるってのに!やだね!たかがビルの窓ごときで!どうして俺様が動かなきゃいけないんだ!!」

輝「頼む飛丸。協力してくれないか。私はそういわれるとどうしても気になる体質でな…!!」

飛「はんっ!やーだねっ。絶対やだね!」

密「…あー、ぼくはどうでもいいからどうでもいいよー」

飛「どうしてもと言われても絶対やだね!!」

密「いや言ってないけど。お耳大丈夫?」

飛「あ!?」

輝「ふむ、参ったな…っ、気になる、どうしても気になる!!」

板「うわ、輝烈統さんが興奮しだした!」

『あれあれ?飛丸クンもしかして…落ちるのが怖いの?』

飛「は、はあ!?んなわけねーだろ!!こんくらい!いや、もっと高いところを、俺様は何度も登ってきたんだからな!!この程度朝飯前だ!!」

『もー、じゃあさっさと登っちゃえばいいじゃない。どんくさいなあ。朝飯前、なんでしょ?朝ごはん食べなくてもちょちょいっと登れるんだよねえ?』

飛「ぐっ…ぐぬう…!!」

『うぷぷ、無理はしなくていいよ?無理強いは好きじゃないからねえ。まあ、いいんだよ?たかがビルごときに体力使わなくてもさ!たかが!』

飛「~~~~ッ!!わーったよ!!いけばいいんだろ!!うっぜーな!!」

ー十分後ー

輝「…どうだったか、飛丸」

飛「…ん。ここらいったいのビル、全部じーーーっくり調べたんだからな、文句言うなよ!」

板「え、たった十分の間で!?すごいね!」

飛「だろ!おかげでこんなだぜ…」

板「うわ、体中ペンキまみれっ、絵っていうのは本当みたいだね」

輝「乾燥しているペンキや絵具も、ずっと触っていると身体に色がつくからな。」

飛「あーあ、疲れたぜー。ペンキまみれでムカつくけどよっ」

『どうおー?ちゃんと調べられたみたいだねー。』

輝「ああ。おかげさまでな」

飛「ふん!今日は素直に聞いてやったんだ!感謝しやがれ!!」

板「はいはい…」

ーーーーーーーーーーーーーーーー

板「っていうことがありまして。」

樹「な、なるほど…」

じゃあ、さっきの飛丸君についてた青い汚れは、騙し絵をたくさん調べたからか…

よし、私も、さっきモノクマに聞いたことを、二人に話そう。


・・・・・・・・・・・・・・・

 

板「なるほどね、にしても、餓死かあ…怖いな…そうならないように、早めに確保した方がいいね。よし、探そうか!」

輝「…大方検討はついているがな。」

樹「ほ、本当に!?」

輝「ああ。実は、ルーチェカフェというものをつい先ほど通り過ぎたんだ。まだ私たちは入っていないがな。…まあ、それもお飾りかもしれんがな」

ルーチェカフェ…カフェ…喫茶店…ってことは、食料はある確率が高いかも。とりあえず、行ってみよう。お飾りだろうとなんだろうと、なにも行動しないよりマシだ。

樹「ありがとう!行ってみる!」

輝「了解した。ちなみに、場所は飛丸が向かった方向をそのまま真っすぐ行けばいい。看板があるからすぐわかるだろう。ではな。私たちは念のためまだここを調べる。では、頼んだぞ」

樹「わかった!ありがとう!」

 

 

 

 

 


≪ルーチェカフェ≫
輝烈統さんに言われた通り、飛丸さんの跡をつけ、なんとか辿り着けた。飛丸さんとは合流はしなかったけど。

このカフェ、外見は頑丈そうにできており、壁は黒く光沢がある。そして、屋根はレモン色で花のつぼみのような見た目で出来ている。

樹「よし、入ろうっ!」

扉を開ける。すると、チリリン、という小さい鈴の音が耳に入った。おお、なんともオシャレなカフェらしい…いや、待てよ。カフェって必ず鈴がついてあるんだろうか。どうだろう。そもそも、喫茶店とかよく行かないからな。私。

…まあいいや。ちゃんと扉は開けられたから、ここはお飾りではないようだ。

床は薄紫色の薔薇の柄が描かれており、中はオレンジ色のライトがついており、明るい。観葉植物が2,3個、端っこに置かれている。テーブルは4個、椅子は16個設置されている。きちんと全員分あるようだ。

あと、どうしてだか、ラップ調の音楽が聞こえる…何故だろう、と、あたりを確認すると、ジュークボックスまで設置されてあった。誰が音楽をつけたんだろう…いや、考えるまでもないな。

府「YO!YO!あいつもこいつもYO!YO!ライトで揚揚!明るいYO!!」

…音々ちゃんは、相も変わらず、ジュークボックス付近でラップを歌いながら楽しそうに踊っていた。踊りに夢中なせいか、こちらには気づいていないようだ。

村「あ、樹力さん…ここ、こんにちは…あれ、こんにちはでいいんだよね…時計は今15時を差してるから…」

入「Ok!(-ω-)/」

村「あ…よかった」

伊「時間なんざもうどうでもいいだろ。ここからでられないし。空も見えねーから関係ねえよ。」

村「そ、そんなこと言わずに!ここから出よ…うう、ずみません…」

伊「や、なんも言ってねえだろ…ったく、お前面倒くさいな」

村「す、すいませっ」

伊「あー、もういいよ。…ウジウジ野郎を相手にするの苦手だな…はあ。」

村「うう、やっぱり女の人って会話が難しい…」

音々ちゃんの他には、村田君、入菊君、伊瀬さんが席に座りながらお喋りしていた。あとズィヅさんもいるっちゃいるけれど、あの3人とは別のテーブルに、本を読みながら座っている。あ、ズィヅさんの隣に、色んな本が入ってる本棚がある。しかも、きちんとジャンル分けされている。

樹「あの、みんなはここでなにをしてるの?」

府「YO樹力!ティータイム!お茶会なうだZE!」

入「お茶会!('ω')」

伊「俺は成り行きで参加してる」

お茶会…確かに、3人が座っているテーブルには、美味しそうなクッキー、サイダーや麦茶等の飲み物が並べられている。密美津ちゃんみたいに最初から持ってきていたのだろうか。あるいは…

府「そういや樹力!大発見だYO!食料やキッチンが、このカフェに設置されていることがわかっTA!!イェア!!」

樹「おおお!!!大発見だよ!!!」

これで餓死にならなくて済むね!!今のところは!!

伊「わー、声でけえ。」

樹「あ、ご、ごめんなさいっ!!」

伊「…いや、謝らなくていいっての。ただ、あっちが舌打ちしてたから。」

伊瀬さんは、親指でズィヅさんを指さした。チラッと顔を見ると、あからさまに不機嫌そうな顔をしている。近くに行って謝る勇気は毛頭ないので、その場でペコペコと頭を下げながら小声で謝った。ズィヅさんは眼中になさそうに再び本を読み始めた。

府「しかも、食料は1週間ごとにドンドン追加されるらしいZE!モノクマが言ってTA!」

樹「モノクマさんが?あのクマさん、どれだけ色んな人に色んな情報を伝えてるんだろう。行動が早いなあ…」

村「え、ど、どういうことです?」

樹「実は…」

みんなに、今までの事を話した。ズィヅさんにも伝わるように、支障がないほど大きな声で。

府「ほうほう、聞いたことをまとめるTO、コンクリートの塊NEに食料KA!食料ってのHA、ここのことを言ってるに間違いはないZE!」

村「今まで通ってきた道にあった建物のほとんどが、かざりものですか…でも、僕はそんなに出歩かないし用があるとしたらここくらいしかないからあまり気にするようなことじゃな…あ、すいませっ、余計な事をっ!!」

樹「あ、いや、大丈夫ですっ!」

確かに、外にあまり出歩かない人にとってはあまり関係ない事だったかな…。それにしても、村田さん、ウジウジしている割にはズバズバ言うなぁ…。すぐ謝るけど。人は見かけによらないってこういうことを言うんだろう。

伊「…謝るくらいなら言わなきゃいいだろ。」

村「す、すいません、悪気があって言っていた訳じゃなくて、その、えっと、あの…」

伊「あ?」

村「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!!」

伊「…あ…」

村田さんは、涙を流しながらカフェの外に出て行ってしまっていた。そういや、女性恐怖症なんだっけ…。あれ、じゃあ、なんで伊瀬さんと音々ちゃんがいるのに、お茶会を皆でしていたんだろう?

伊「…やっちゃったなー…」

入「次があるチャレンジチャレンジ('ω')ノ」

府「Yes!!」

樹「チャレンジ?」

府「ああ、ミーと伊瀬で、村田と仲良くなろうとこのカフェでお茶会を試みたのDA。もちろん、最初は頑なに嫌がっていたが、入菊が協力してくれTE、なんっとか、お茶会を開催できたんだGA…この通りDA。うーむ、今のは伊瀬が悪いNA」

伊「…悪かったって…」

府「謝るならちゃんと本人に謝らねBA!」

伊「…わかったって」

府「本当KA-?まあ、いいYA!樹力!ユーもお茶会、参加するかい?」

樹「うーん、私は…」

お茶会か…楽しそうだし、参加しようかな。あ、でも、どうせなら…

樹「ど、どうせなら、みんなでやった方がいいと思うんだ!」

こんな私が意見していいのかわからないけれど、とりあえず言ってみた。どうかな、余計なお世話だったかな…?

府「…!忘れてたZE!!みんなを誘うの!!」

樹「いや忘れてたんかい!!!」

伊「おー、キレのあるツッコミ」

入「さすが(^_-)-☆」

府「というわけで樹力、行ってこいYO☆」

樹「いや私が行くの!?しかも一人で!?」

府「だってー、このクッキー4人分しか用意してないSI。準備も大変なんだZO-?」

樹「ああ、そう…そういうことなら、まあ、仕方ない、かな?」

上手く丸め込まれた気がするけど、まあいいや…。言っても「そんなことないYO」とか言ってまたあしらわれるのが目に見えてるし…。

伊「でもいきなりあいつらに言うのもなんだしお茶会は明日にしねえ?」

入「そうだね('ω')村田君の事もあるからね('ω')」

府「っーわけで樹力!みんなに連絡YOROSIKU!!あ、ミーたちも見かけたら誘っとくから安心しろYO!」

樹「…りょうかーい…」

 

 

≪ノルンシティ街路地 1番街 ≫

適当にそこらへんをぶらついていると、なにやら巨大な白いシャッターが私の前にそびえたっていた。どうやらここから先は行き止まりらしい。

シャッターは頑丈で、トントンと叩いても微動だにしなかった。力強いパンチをしても逆にこっちの手が壊れてしまいそうなくらいだ。そして、周りにはシャッターを見上げている蓮楼寺さんと蓮楼寺さんを見ている八夂ちゃん、そして墨尾さんがいた。

墨「樹力殿!」

樹「あ…墨尾さん」

無邪気な笑顔で声をかけられる。どうしよう、八夂ちゃんみたいに墨をぶっかけられないか、不安だ。予備の服とかあったかな…!?

墨「な、何故怯えた目で拙者を見るのでござるか!?」

樹「いや、だって!墨ぶっかけられたら困るから…!!」

墨「うああああ!!その説は誠に申し訳ないでござるううううう!!!」

樹「ちょ、ちょっと待って!私に土下座されても困るんだけど…!」

墨「踏みつけてでも罵倒してもなにされてもいいから許して欲しいでござる!!なんでもするでござる!!」

樹「えええええ!!??そ、そんな!私ドSじゃないから人を傷つけて楽しむ性癖とか持ってないよ!?だいたい、謝る相手が違うんじゃないかな…。本人、そこにいるんだし、そっちに謝った方が…。」

一「ああ、私にはちゃんと謝ってくれたよ?でも、樹力ちゃんにも若干かかっちゃったからじゃないかなあ?」

そ、そういや少しかかったな…いや、でも、それに関しては怒ってはいないけど…ううん、どう答えたらいいんだろ…。と、困っていると、蓮楼寺さんが私の前にスッと遮った。

蓮「では、さっそくですがそこにあるシャッターを破壊していただけないでしょうか?」

墨「なぬっ!?」

蓮「なんでもするって言いましたよね?では、通行の邪魔になっているこのシャッターを破壊してください。お願いします。」

墨「ぶぇっ…!?む、無理でござるよ!!蓮楼寺殿の武器でも破壊できなかったのでござろう!?大して力もない拙者が…」

蓮「…なんでもしてくれるんじゃないんですか?」

墨「ぐっ、ぐぅぅ…!!…む、無理でござる…こればかりは…」

蓮「ふふ、『なんでもする』という言葉は、むやみに使わない方がよろしいですよ。今みたいに無茶なお願いをされたら、どうしようもないでしょう?」

墨「…そう、で、ござ、る、な…」

墨尾さんはだんだんと声が小さくなって、最後あたりは聞こえないくらいボソボソ声になっていた。対して、蓮楼寺さんは、キラキラと輝いている紳士的スマイルを微塵も崩さなかった。

一「はわわぁぁ…かっこいい…さすが蓮楼寺さん…」

樹「あ、あはは…ところで、3人は、その、なにをしていたの?」

蓮「見ての通り探索中です…が、このシャッターが僕たちを通行止めしていまして。こんなに力を入れて封鎖しているということは出口かなと思い、護身用の武器で破壊を試みたのですが。傷一つつかなくて。」

樹「…護身用の…武器…それって…まさか…!?」

蓮「ああ、ご安心を、確かに本物の拳銃やらナイフやら、僕は持っていますが、飽くまで護身用です。殺しには使いませんよ」

樹「!!っわ、わかってますわかってます!!」

危ない危ない、つい凶器になるものを持ってるんじゃと聞くところだった…もしこんなことを言ったら「疑われている」っていう気分になっちゃうし…あ、でも、私の今の反応も、「疑われている」と思わせてしまったかもしれない。

一「蓮楼寺さんは人殺しなんてそんなことしないよ!!私、信じてる!!」

樹「…八夂ちゃん…」

八夂ちゃんは、本当に蓮楼寺さんを信じてるんだな…。恋の力がそうさせているのだろうか。

蓮「はは、だからと言って凶器を持っている一番危ない僕を簡単に信じるのは、どうかと思いますがね、ふふ」

一「蓮楼寺さんー!!私のセリフを台無しにしないでください!!」

樹「あはは…」

そういえば、最初は八夂ちゃん、蓮楼寺さんとは顔真っ赤になりすぎていてまともに会話ができてなかったのに、今ではもうちゃんと顔を見て会話出来ている。そういえば、吊り橋効果というのを聞いたことがある。男女2人が互いに危機的状態に陥るとどういうわけかラブラブになるっていう。まあ、今はある意味危機的状態だから、もしかしたらその吊り橋効果がでたのかもしれない。

墨「樹力殿は?」

樹「ああ、えーっと」

私は、これまでのことを話した。ついでに、カフェのことやお茶会のことを。

一「お茶会かー!!楽しそう!!蓮楼寺さん、行きましょう!!?」

蓮「…うーん16人、全員ですか…そうですね、皆さんと交流を深めるのも悪くないですし構いませんよ。」

墨「勿論行かせてもらうでござる!!」

樹「おお、よかった!あとは板是君たちと、村田さん、それと…あ、刻風君だ」

一「…刻風君…」

樹「ん?どうしたの?」

一「いやね、私、入学する前から、軽くみんなのことは調べてるんだけどさ…刻風君って名前、聞いたことなくって。なんの肩書きを持ってるのかも、詳細もわからないし、謎だらけだなって」

墨「ミステリアスでござるな…」

蓮「……」

樹「そうなの!?八夂ちゃんや入菊君は詳しい事知ってるんだと思ってたよ」

一「うーん、入菊君は知ってるかもよ?生憎、私はごく普通の一般人だからさ、公になってる情報しか知らないし。」

樹「んー、じゃあ、また会った時に聞いてみようかな、刻風君本人は、声かけても反応してくれなさそうだし。じゃあ、そういうことで、ありがとう!」

一「うん!こっちこそお誘いありがとー!!」

こうして私は、お茶会のために、蓮楼寺さんたちがいるこの場を後にした。…今さっき、蓮楼寺さんが私をじっとみつめてたけどなにか話あったのかな…?でも、もう背中向けちゃったし…まあいいか、用があったら向こうから話しかけてきてくれるだろうし。

 

 

 

 

≪ノルンホテル 3階≫
樹「はー…」

深い深い、重苦しいため息をつく。断られようがなんだろうが、とりあえず全員に連絡しなきゃいけないんだよね…ってことは…うん。

ホウジョウ シャラというカタカタ表記された彼女のカードキーを見る。早くインターホン押さなきゃでも…

「は?そんなの行くわけないでしょ?」

ってセリフは必ず言うとして、更には毒を重ねに重ね、グサグサと心臓に突き刺さるセリフを言ってくるんだろうなと思うと…

宝「なに人の部屋の前で突っ立ってんのよ、ほんっと、あなた人の邪魔しかしないわね」

樹「ぎゃあああああ!?いたああああ!?!」

宝「…失礼ね。で、なによ」

樹「あ、あああ、ああ、あの、お茶会来ませんか!!」

宝「は?お茶会?」

樹「そう!!お茶会!!明日!!みんなで!!」

そう。伝えるだけ。伝えるだけだ。断られようがなんだろうが、伝えられたらそれでいいんだ!!!はーっはっはっは!!片言になっちゃってるけどやけくそじゃい!!!!

宝「いいけど。」

樹「へっ!?」

宝「…なに?その間抜けな声は」

樹「い、いや、断ると思ってたから、つい…」

宝「別に断る理由ないし。で、用はそれだけ?」

樹「…あ、はい。」

宝「あっそ、じゃあさっさとどいて。さっさとジュース飲んでゴロゴロしたいし」

樹「…あ」

手にスポーツドリンクが入ってるペットボトルを持っている。

樹「それ、どうしたの?喫茶店に行ったの?」

宝「自販機。1階にあったから」

樹「自販機なんてあったっけ…は、ああ!!うん!!あったね!!」

この子の前では知らないことも知ってるフリをしよう、そんなことも知らないの?なんて言われるし!

宝「…説明しておくと、自販機、小銭使わないから。ボタンを押すだけで飲み物手に入るから」

樹「そ、そこは喫茶店と同じような感じなんだねー!!」

うう、棒読みになってるよねこれ!!ううう、苦手なんだよ、表情を作って苦手な人と接するのは!!

宝「じゃ、私も一応、情報提供はしといたから。…そうそう、お茶会の件、他に誰かまだ誘ってない人、いるの?」

樹「ええと、ソウちゃんと、板是君と輝烈統さん、飛丸君…うーん、まだまだいるけど…」

宝「ロクに誘えてないじゃない。トロいわね」

樹「ぐっ」

宝「ま、いいわ。私だけなにもしてないのは癪だし、手伝ってあげる」

樹「…えっ?い、いいの?」

宝「聞こえなかったの?手伝ってあげるって言ってんのよ」

樹「…!!あ、ありがとう!!影羅ちゃん!!」

宝「気安く呼ぶな。」

樹「ご、ごめんなさい調子にのりました」

あまりに嬉しくて、つい名前で呼んじゃった…たはは…

宝「…はあ。そうそう、誘ったかどうかは知らないけれど、刻風なら、屋上へ行ったのを見たわよ。行ってみれば」

樹「…!う、うん!丁度探してたんだ!行ってみる!ありがとう!宝錠さん!」

宝「…さっさと消えなさい」

あんなに優しい宝錠さん、珍しいし外では大嵐でも起きそうとか思っちゃうけれど、、やっぱり、普段怖いと思っている人の優しい一面を見れるのは、不思議と嬉しさを感じる。少しは、仲良くなれたのかな。だとしたら、嬉しいな。

 


≪ノルンホテル 屋上≫


ここは、みんなと出会った場所。そして私の始まりの場所。そこには、言っていたとおり刻風君が一人、ただ一人ボーっと突っ立っていた。顔は痩せ細っているし、顔色もあまりよくは見えない。目も、生気を感じられない。まるで死体、ゾンビのようだ。

けれど、刻風君も同じ仲間…なんだし。大丈夫、宝錠さんまで誘えたんだ。怖くない怖くない!!

樹「と、刻風君!!」

刻「……?」

こちらに振り向いてくれた。けれど、返事はなかった。

樹「あ、あの、明日みんなでお茶会開くんだけども、くる、かな~?」

声が震えてしまっている。ああ、もう、ダメだ!相手に失礼なのはわかっているけれど、私コミュ障だしぃ…

刻「…」

刻風君はうなずきもせず、スッと私の横を通り過ぎていった。これって、お断りしますってことだよね。あはは…ま、まあ、ですよねー…わかってたよ…たはは…

刻「…誰」

樹「え」

…あれ、言ってなかったっけ、いや、もうさすがにみんな知ってるでしょって思ってたんだけど。あれれ…ま、まあいいか。

樹「…樹力 みかです。あ、樹力って呼んでください」

刻「…樹力さん?」

樹「う、うん」

刻「…わかった。そう呼ぶ…」

刻風君はエレベーターに乗る…と思いきや、エレベーターの横に寄りかかってまたボーッとし始めた。うっかり寝ないといいけど…ほら、校則に個室以外で寝ちゃダメーっていうのがあったし…

ううん、とりあえず、この場を去ろう。これ以上話しかけても、何も答えてくれなさそうだしね。そう思いながら、私は、エレベーターのスイッチを押した。その瞬間…

刻「…気を付けて」

樹「…え?」

刻「幸運には、気を付けて」

幸運…?それって、まさか、八夂ちゃんのこと!?

樹「それって、いったいどういうこと!?八夂ちゃんがいったい!?」

ガタンッ!

しまった、エレベーターの扉が閉まっちゃった。どうしよう、すぐに開け…!いや、八夂ちゃんに会いに、彼の言葉がどういうことか、確かめよう…。

……胸の奥がざわつく。なにか、そう、嫌な予感がしたんだ。あの言葉のせいで。気になるけど、向こうは答える気がないようだ…。仕方ない。早く、八夂ちゃんを探そう!!

≪1階デス≫

エレベータの電子ボイスが鳴り響く。そして扉が開く。そして私は、駆け出しながら出る。すると、ゴツン、という頭と頭がぶつかるような音がした。

一「いたたたたた、なな、なに!?」

樹「…!!八夂ちゃん!!」

一「き、樹力ちゃん…どうしたの?そんなに焦って…」

樹「…実は、その」

……いや、待てよ、いきなり刻風君が幸運には気を付けろ八夂ちゃんには気を付けろ…って言ってた、なんて言ったら、どんな反応をする?少なくとも、疑われてるって嫌な思いをするはず…いやだからといって、ここで嘘つくのも…。

一「…ねえ」

樹「はっ!!」

一「…どうしたの?一体全体」

樹「…う、ううんっ!!いや、なんでもないよ!!」

一「…そ、そう。」

…誤魔化してしまった。仕方ない。こうしちゃった以上、しばらくは八夂に人一倍気を回していよう。刻風君の言葉を真に受けたわけではないけれど、やっぱり不安だし。

一「そういえば、樹力ちゃんもさっさと喫茶店寄って夜ご飯とってくれば?時計をみるかぎり、夜は近いし」

樹「…あ、そうだね」

空は見えないけど、時間見える。時計はは5時あたりを差している。

樹「あ、あのー、八夂ちゃんも一緒に来てくれないかな?そのー、一緒に行く方が楽しいし!!」

一「えー、また行くハメになるのか…まあ、いいよー、友達と一緒に行くのは確かに楽しいしー、まだ蓮楼寺さんたちはそこにいるしっ!!」

樹「だ、だよだよ!ほら!行こう!」

一「わ、樹力ちゃん腕引っ張らないで!!って、もう!なんなのー!?」

私は八夂ちゃんの腕を強引に引っ張り、そそくさにホテルから出た。少し強引になってしまったけれど、あの言葉を鵜呑みにしたわけじゃないけど、放っておいたら、大変なことになるかもしれないというという胸騒ぎが私の中で起こっているのだ。

 

チク、タク、私の足より遅いリズムで、時計が進む音が聞こえる。まるで、カウントダウンをしているようだ。私の中の、嫌な予感が的中するための。…なんてね。でも、この時計の音は、針が進むたびに不安や焦りを増長させるようだ。特に、今みたいな時は。