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不定期更新しますですー

ダンガンロンパR・D chapte1‐2(非)日常編 求めるもの

≪樹力ルーム≫

『オマエラ、おはようございます! 朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~! さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』

モニターから大きな声のモノクマの声が聞こえる。もう朝か。早いな…さっさとカフェに行こうっと。朝の集合場所はあそこってことになったし。

翌朝。昨日はほぼ何事も起きることなく、一部を除いてみんなと仲良くなれたまま、一日を過ごせた…と思う。少なくとも、私が知ってる範囲では。ただ、気がかりな事が一つある。

『幸運には、気を付けて』

謎に包まれた少年、刻風君が、私にそう言い残したまま、それ以降私に姿を残すことなく一日は終わってしまった。

幸運とは、超高校級の幸運と呼ばれる、一谷 八夂ちゃんの事だろう。彼女が一体なんだというのかわからない。けど、わからないからって、そのまま流しちゃうのは、いけない気がする。

あれから八夂ちゃんとは夜ご飯をとりにいって、そのまま別れてしまったけれど、大丈夫だろうか。不安だ。何も起きていないといいけれど…。

不安ならずっと一緒にいればいいじゃん、と思うかもしれないけれど、今の私の、『疑い』という感情は、なるべくみんなに悟られたくないのだ。みんなには不安な気持ちにさせたくないから。

…集団行動は、1人が勝手な行動をすれば、みんなその1人に惑わされる。私が根も葉もない証拠で勝手に八夂ちゃんを疑えば、疑いや嫌悪といったマイナスな眼差しは一気に八夂ちゃんに向くだろう。

それは嫌だ。でも、こんなこと思ってる私も、あの言葉に惑わされている。だから、はっきりさせるんだ。刻風君のあの言葉がどういう意味なのか。誰かにこの事を話すのは、その後だ。

 

 

 

 

 

 

部屋から出て、何歩か歩いて着くエレベーターに乗って一階に着く。そこにはカフェに行こうとしている、ぶるぶると震えている村田君、入菊君、伊瀬さんを見つけた。

伊「昨日は悪かった」

村「あ、いえ…そんなに気にしてないというか、こっちこそごめんなさいです」

どうやら、昨日の事に関して話しているようだ。うーん、雰囲気が微妙に気まずい。たまたまみかけたものの、私が話に入っていいのかな…?いや、ダメでしょ…さっさと行こう。どのみち後で会えるんだし。

入「あ、樹力さんオハヨーヾ(^∇^)」

樹「あ、ああ、おはようっ!」

ネガティブな事を思っていた矢先、入菊君が顔文字の真似をしながら私に手を振ってきた。それに対して私はおどおどした返事をしてしまった。

村「わわっ!!おはようございます!!」

伊「おはよ」

村田さんは私よりおどおどしていて、伊瀬さんはけだるそうに挨拶をしてくれた。

そういえば、村田さんお茶会どうするんだろうなあ…。昨日、あれからみかけなかったし、とりあえず聞いてみよう。

樹「あの、村田さん!お茶会の事なんですが!」

伊「おめーまだ誘ってなかったの」

うっ…しょうがないじゃない、みかけなかったんだから…なんて、言えないし…。

村「ああ、し、知ってますよ。またお茶会やるんですよね。宝錠さんから聞いてます。」

…!宝錠さん、本当に誘ってってくれたんだ!!なんやかんやで優しいな、とこの時改めて思った。

村「その、はい、行きます。やることないですから時間潰しに…あっ!す、すいません!!わざわざ誘ってくれたのに余計な口を!!」

樹「い、いや、大丈夫ですけど…」

伊「…おめーらって似てるよなー…」

樹「ええ!?似てます!?」

村「えええっ!?そんな!!僕に似てるだなんて!!そんな!!失礼ですよっ!?ぼっ」

伊「…そういう反応が。」

樹・村「うっ…」

確かに、おどおどしちゃうとことかは、似ているかもしれない。しかも今、ハモったし…。でも、なんとなく村田さんに失礼な気がする。だって私、ただの一般モブだもの…

伊「まあいいや。早く行こうぜ」

入「ソダネー(#^.^#)」

樹「…そ、そういえば、村田さん、何か言いかけてた?」

村「!!い、いい、いや、なにも!!!」

村田さんは涙を流しながら、私たちより一足先に向かっていった。女性恐怖症、なんだよね。村田さん。でも、その割には、怖がりながらも伊瀬さんたちとお話ししてる…。もしかしたら、本人なりに克服しようとしているのかな。
すごいなあ。私なんて、パンとか苦手だけど、未だに食べる気にならないや…。喉につまりそうだし。

 

 

 

 

 


≪ルーチェカフェ≫
入口の扉を開ける。すると、がやがやと聞こえる楽しそうなお話し声と、YO、YOとはっちゃけた声をだしながら踊っている少女が私たちを出迎えた。

府「YOYO!!おはYO!!グッモーニング!!」

飛「よう!!村田!」

村「あ、飛丸くん、おはよう…」

蓮「みなさんおはようございます」

一「蓮楼寺さんんん!!」

みんながみんな、それぞれにおはようと挨拶を交わしていた。私も、みんなに挨拶をした。けど、みんなといっても、ズィヅさんと宝錠さん、墨尾さんは、…刻風君はまだここにいないようだ。といっても、
ズィヅさんは人とあまり関わらなさそうな人だから、ぞろぞろと人が集まっているここにはこないという確信がある。

宝錠さんとは、昨日の事でほんの少し、長さで言うなら2kmのロープが1.9kmになったってくらいくらい打ち解けられた…とは思うけど、ここにこないってことは、ただの私の思い込みだったのかな…トホホ…。

墨尾さんは…どうだろう、墨尾さんはもう皆の輪に入りこめている気がす…

墨「寝坊したでござるーーーーー!!!!」

…ああ、ただの寝坊か。

府「さあーーーーって!!ユーアーチェケラ!!みんなはもう知ってるKA!!?ティータイムの事!!!そのことで重大発表DA!!!」

蓮「ええ、知ってます」

府「ふっふっふっ、みんなと交流を深めるためミーが思いついた!!楽しそうな企画だRO!Ohイェア!!」

あれ、音々ちゃんが考えたんだっけ…?まあいいや。追及するの面倒だし…。

飛「でもよー、もうここに全員集まってんなら、さっさとお茶会とやらをやればいいじゃねーか。」

伊「アホ。朝っぱらからワイワイはしゃげるかよ。だりぃし」

板「伊瀬さんはいつもだるそうだよね」

伊「よく言われる。」

府「SO!SO!それに、お茶会はたいてい15時からと決まってるだRO!!」

飛「いやしらねーけど」

入「そこで( *´艸`)重大発表っていうのは15時まで時間があるからみんな( `ー´)ノ好きな食べ物とか料理とか('ω')ノあとはなんでもいいから盛り上げられる芸とか用意してほしいんだ一発ギャグとか」

樹「ええっ、そんな話聞いてないよ!?」

府「当たり前田のクラッカー!!樹力がどっか行ってから思いついた案だしNA!!」

ええええ…食べ物や料理はわかるけど…一発ギャグってなに!?なにをすればいいの!?ふとんがふっとんだ!?

府「ふっふっふ…それでは、楽しみに待ってるZE!!15時まで自由時間DA----!!」

ううう、なんか色々と勝手に進んでるけど…じゃあ、15時までぶらぶらと適当に回ってよう…。

伊「あ、一応わかってると思うが、モノクマにはこのこと言うなよ。なにされるかわかったもんじゃねえ。」

針「ご承知ですです!」

村「わかりきってることをいちいち言わなくても…あ!!ごめんなさっ!?」

府「それではー、各自自由時間DA!!レディゴー!!」

一「あはは、なんかもう、色々と無理やりだね、まあ、いいか。せっかくだし楽しもう!ね!樹力ちゃん!」

樹「!?ああ、うん!」

いきなりポンと背後から肩を叩かれた。その正体はあの八夂ちゃんだ。その子の顔を見た瞬間、私は早くやらなければならないことを思い出す。忘れていたわけじゃないけど、音々ちゃんのハイテンションムードで、すっぽり頭から抜けていた。

樹「じゃ、じゃあ、また15時に!さよーならー!!!」

一「…あ、うん、またねー」

 

 

 

≪ノルンシティ 街路地≫
はー、はー、つい逃げ出してしまった…。

勢いよく走ったわけじゃないけれど、大分焦って逃げたせいか、喉が痛く、息切れしている。

樹「げほっげほっ、普段からあまり運動しないせいだよねー…」

過剰に運動しなくても、普段からあまり運動していなければ、もんの少し走っただけでも疲れちゃうものだ。

樹「…さて、まずどうしようか。」

…八夂ちゃんのこともあるけど、此処のことももっと調べた方がいいよね。あ、カフェに本、いっぱいあった!もしやそこになにかヒントが…!でも、今さっき言ったばかりだし、まだ人がたくさんいるから後回し。

と、なると…今カフェにいない人たちから情報収集だ!よし!頑張ろう!

カフェにいなかった人物は、宝錠さん、ズィヅさん、刻風君…。どれも近寄り難い人物だ。

…刻風君を探そうか。また屋上にいるかな。いるといいけれど。

輝「待ちたまえ、樹力」

樹「ぎゃあああああ!?!?」

輝「ふむ、驚いたぞ。いきなり大きな声をあげだして。」

こっちのセリフだよお!!!!って叫びたいとこだけど、落ち着け私。こういう時は冷静に対処するんだ。うん。と自分に言い聞かせる。

樹「輝烈統さん、いったいなんの用時でしょうか!?」

輝「ふむ…敬語など使わず、もっと軽い口調でよいのだがな。まあいい。用件を言わせてもらおうか。実は、わかったことがあってだな。貴様に話しておくべきかと思うてな。」

わかったこと?なんだろう。ここについてのことかな?それとも、私が今探している答え、このどちらかか、あるいは別の…?

輝「ひとつ言っておく。手がかりかどうかはわからん。」

樹「わ、わからないの?」

輝「ああ。…必要かどうかは聞いて判断するがいい。…今から話す話は、わかった、というより思い出した話だ。」

樹「思い出した…?まさか、モノクマさんの言ってた記憶が!?あれってやっぱり、本当だったの!?」

輝「いや、残念ながら違う。そもそも関連性があるかどうかもわからない、怪しい話だ。だが聞いてくれ。ノルンシティの『ノルン』という単語についてだ。…貴様は、神話は好きか?」

樹「え、うーん、あまり興味はないかな…でも、ある程度は知ってるよ!」

輝「ふむ、そうか。さて、話に戻るが、ノルンというのは、北欧神話に登場する運命の女神と言われている。」

樹「運命の…女神…?」

うむむ、うまく想像できないけれど、でもなんとなくすごい存在だってのは理解できる。…こういうのを小並感っていうんだろうね…。トホホ…。

輝「もっと説明すると、ノルンは北欧神話においてさまざまな血統の人々の運命を支配する多数の女性的存在、ディースの1種である。ちなみに、ディースというのは北欧女神における女神の総称であり、豊穣・運命や戦いを司る霊的存在の一種。
黒いベールを着た乙女戦士の姿が特徴。破滅と不吉の予言が迫っている事を警告し、恐ろしい姿で現れるとされており、運命に介入する者が役割で…」

輝烈統さんは、いつの間にかベラベラと説明を続けていた。なんとか頭に入れようとはするものの、早すぎるし長いからぼんやりとしか頭に残らない。

輝「…っと、失礼。つい長く語ってしまってな。なにか参考になったか?」

樹「え?えと…」

どうだろう。『ノルン』の意味はわかったけど、でも、今探してるもののヒントには、なってない…と、思う。

輝「ふむ、すまないな。力になれず」

樹「う、ううん!ありがとう!でも、その、なんで私に話してくれたの?こういうことは、蓮楼寺さんや入菊君とか、頭のいい人に話した方が…」

輝「頭のいい奴はあまり信用できん。なにを企んでるかわかったもんじゃない」

う、うーん、まあ、気持ちはわかるけど…。ていうか、輝烈統さんも頭いい人…に見えるから、あまり人の事言えないんじゃ?というのは置いておこう。

輝「それに、何かを探しているようだったからな。貴様はすぐ顔にでるからわかる。」

あ…ばれてた?でも、なにを探しているかは、まだ勘繰られていないようだ。

樹「あはは…ここからでる方法ないかなーって。」

とっさに嘘をついた。でもこんな嘘、輝烈統さんならすぐにわかっちゃうだろうなあ。

輝「そうか。脱出に専念するのなら、私も協力を惜しまん。だが、今の私は楽しむ事を専念させてもらおうか!!」

輝烈統さんは、スチャッと眼鏡をかけなおし、今より更に高い声で、笑いながら言い始めた。

樹「楽しむ…?お茶会を?」

輝「ああ。実はお茶会で、刻風と漫才をすることになったのだ!!!」

…ん?漫才?誰と?

輝「ではな!樹力。また会おう。応援しているぞ。さて、ネタ作りで忙しくなるぞ…。」

…あ、ポカーンとしてる間に行っちゃった。

私の耳がおかしかったのだろうか。いや、でも…漫才…刻風君って言ってたような…。でも、漫才できるのかな…いや、そもそもくるのかな?あの刻風君が…。全く想像できない。

…輝烈統さんの話が本当ならば、あとで会えるんだろうけど…。でも、来てくれるようだったら、その時また改めて聞こう。

さあ、次へ行こう。次は…んー。ここ、施設が多そうで、あまりないんだよなー。建物のほとんどが飾り物だって言ってたし…。はあ、全く、もうちょっと設備整えてくれたっていいのになあ、もう!!

…時計の音がうるさいな。苛立っている時に時計の針の音を聞くと、イライラが増しちゃうよ…もしや、この周りにある時計はモノクマさんの嫌がらせ?…あり得ない話じゃないな…!

 

 

 

≪ノルンホテル 1階≫
適当にぶらつくって言ったものの、いったいなにをしよう…自分の部屋にいても暇だしなぁ…。

お茶会ねえ…みんなとの交流を深められるいい機会だけど…なにをしようか全く思いつかない!!八夂ちゃんの事を調べようにも、手がかりみたいなものはないし。

…お茶会にきてなかった人たちの様子を見に行こうかな。あ、丁度、自動販売機の近くにズィヅさんがいる。…んー、声かけてみようかな…でも怖いなあ…

ズ「おい、何ジロジロ見てんだよ。気持ち悪い」

樹「すっ!!すいません!!」

気が付かぬうちに、ジロジロ見てしまったようだ。うう、失礼極まりない…。…そして、昨日か一昨日に似たようなことが別の人物だけどあった気がする。

ズ「…何か用でもあるのか?ないなら、俺はこれで失礼するぞ」

用か…そういえば、お茶会は結局参加するんだろうか。昨日、ルーチェカフェにズィヅさんはいたものの、参加するかどうかはわからなかったしなあ…。

ズ「…お茶会?参加するわけないだろう。じゃーな。」

…だ、だよね。みんなでワイワイはしゃぐタイプに見えないもの。ズィヅさん…。

ズィヅさんは、スタスタと歩くと、エレベーターに乗って行ってしまった。それにしても、やっぱり睨んでるときの視線怖かったなあ。石にされるかと思ったぁ…。

一「樹力ちゃーん!やっほー!!」

蓮「おやまあ、また会いましたね」

声がする方を向くと、入り口から蓮楼寺さんと………八夂ちゃんだ。あからさまなリア充オーラを放っている。もう付き合ってるのかな?なんて呑気な事を考えながら2人のところに行く。

一「なにしてたの?」

樹「えーと、ズィヅさんをお茶会に誘ったのですけど、断られちゃって…」

一「ええ、あの人に声かけたの!?自己紹介の時あんな思いしたのに、勇気あるねえ樹力ちゃん

樹「い、いや、私から声かけたわけじゃないけど…」

蓮「いい度胸してますよね」

樹「れ、蓮楼寺さんまで!?」

蓮「あはは、冗談ですよ。ていうか僕、自己紹介の時の彼の様子なんて知りませんし。どんな感じだったんですか?」

樹「え、えーとぉ…」


ーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、あのお…」

「…なんだよ、目障りだから早くどっかいけよ」

「わわっ、ごめんなさい!」

彼と目を合わせようと足をかがむと、うっとおしそうに返事された。彼の眼は左目が前髪で隠れていて見えず、右目の朱い目しか見えない。その目は鋭く細くて、睨まれただけで石になってしまいそうだ。

「……」

彼は、お前と話すことはない、とでも言いたげに目を瞑った。多分、寝ちゃったのかな…?
「や、八夂ちゃんんんん…」

「あらら、いきなりハードル高い人に話しかけるなんて、やるねえ、樹力ちゃん。」

や、やっぱり見た目どおり気難しい人なんだ…。うう、一番近くにいたっていう理由で話しかけたのが仇になったか…。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

樹「…って、感じです」

蓮「ふふふ、貴方らしい反応ですね。」

樹「え!?」

蓮「ふふ、失礼失礼。あまりに面白くて。」

え、ええ、蓮楼寺さんにとってそこまで面白かったのかな…?今の…。うーん、嬉しいような……いや、全く嬉しくないけど。笑う要素どこにもないよね!これは馬鹿にされたのかな(´・ω・`)…って、入菊君みたいになっちゃった!!

一「あーもう!!私を置いてけぼりにしないでください!」

蓮「ふふ、ごめんなさい、一谷さん」

一「はぅあっ!!イケメンスマイル…!!」

八夂ちゃんの心臓あたりに、ピンクの矢がズッキューンという効果音と共に突き刺さった。

蓮「ところで、樹力さんは、お茶会どうするのですか?僕は紅茶でも淹れようかなと思っております。あと、お茶菓子も作ろうかと。こう見えて、紅茶を淹れるのは得意なんですよ。自分で言うのもなんですけどね」

一「さすがですっ!!!」

樹「うおあぁ…お料理上手なところとか、イケメンオーラがでまくってます、眩しいです…」

一「うおあああ!!」

樹「八夂ちゃん、ちょっとうるさい」

一「あはは、ごめんなさいっ」

蓮「ふふ、仲が良くていいですね。お二人とも。羨ましい限りです。」

一「えへへ、それほどでも!」

樹「…」

八夂ちゃんと仲がいい、か。うん。それは嬉しい。嬉しいけれど、でも、私は刻風君のあの言葉を聞いてしまったせいで、あまり素直に喜べないでいる。

『幸運には気を付けて』…いったい何を気をつけろっていうの?あの言葉を思い出すたびに、胸がざわざわして、落ち着かない。不安なんだ。だって今は、いつどこでなにが起こってもおかしくない状況だもの。

一「樹力ちゃん?どしたの?ボーッとしちゃって」

樹「…!え、いや、なんでもないよ!!」

うう、また考えすぎちゃってた…はあ。考えるのはいいけど、顔に出ちゃうからなあ、私。

蓮「ふむ…一谷さん、樹力さんの面倒を、少し見ていてはどうですか?顔色が悪いようですし。」

樹「えっ」

一「わかりました!」

蓮「かしこまりました。それでは、一旦私物を取りに行くので、失礼します」

蓮楼寺さんは、執事さんのように、にっこりとお辞儀をした後、エレベーターに乗ってどこかへ行った。多分自分の部屋に戻ったのだろう。

うう、困ったな…2人きりだと気まずいよ…。蓮楼寺さんがいた方が、まだ気が楽だったのに。リア充オーラを浴びようとも。

 

 

一「ああー、行っちゃった。もっと一緒にいたかったなー。」

樹「ご、ごめんね、私なんかのせいで…」

一「あ、謝らないでよ!確かに蓮楼寺さんと一緒にいれるのは嬉しいけども、樹力ちゃんのことも心配なんだよ!それに…」

樹「それに?」

一「樹力ちゃん、昨日から様子変だし。…私だけに対して。…私、なにかした?」

樹「っ!?」

一「気付いてないとでも思った?ルーチェカフェではいつも通りだったのに、今じゃなんだか挙動不審なんだもの、蓮楼寺さんがいなくなった直後から。樹力ちゃん、考えてることすぐに顔にでるんだもん。」

表情はいつも通りにこにこしている。けど、声のトーンが怒りを表している。どうしよう。話す…べきなのかな。

一「…」

八夂ちゃんは表情を真顔に変え、私をじっと見始めた。私の言葉を、待っているのだろう。

樹「う、うぐぐぐ、ええと…」

…ダメだ。言えない。言うのが怖い。もし言ったとして、どうなるんだろう。わからないや。でも…嫌な気持ちにはなるよね。『幸運には気を付けろ』だなんて。

…まだ、言わないようにしよう。やっぱり、何回も言うけど、刻風君の言葉の意味をしっかりと確かめてからでないと。

けれど、もうごまかせないだろう。なら、正直に……

樹「…ごめんっ!八夂ちゃん…その、今は、言えない。」

一「え?」

樹「でも、その、嫌ってるだとか、そんなんじゃないんだよ!…八夂ちゃんは、初めて会った時!」

一「ど、どうしたの、いきなり叫んで」

樹「からかってはきたけども、私と一緒に行動してくれた時、色々と親切にしてくれたし!」

一「あ、ああ、わかったわかった、もういいっ」

樹「それに!!八夂ちゃんとはなんだか親近感を感じるんだっ!」

一「…へ?親近感?」

…はっ、勢いのあまり、八夂ちゃんを遮ってまで言わなくてもいいことまで言ってしまった…。ま、まあいいや。もう言ってしまおう。

樹「そ、その、八夂ちゃんと会った時、親近感感じてたんだよ。ほら、これからも仲良くできそうだなあ、気が合いそうだなあ、だとか。」

個性ありすぎる人たちの中で唯一気軽に会話できていたし…。…いや、今は、みんなの中で会話するのが一番気が重い人物になってしまったけれど。

一「…それって、私に?」

樹「え?う、うん。そうだけど。」

あれ、私、なにかおかしいこと言ったかな……?

八夂ちゃんは、少し顔を俯かせていた。…ん?よく見ると、ほんの少し頬が赤い。あと、口元がにやけている。…あ、もしかして

樹「照れてる?」

一「ふぉあっ!?ちち、違うよー!?」

八夂ちゃんは小さい力で私にポカポカとグーで叩いてきた。どうやら図星らしい。うう、痛くなってきた…。でも、照れてるのか。なんだか嬉しいなあ。

一「…そ、その。」

樹「ん?」

八夂ちゃんは、叩くのをやめると、また私をじっと見てきた。けど、今は晴れやかな笑顔だ。

一「私も、親近感ってやつじゃないけどさ…樹力ちゃんとは、仲良くしたいなって思ってたんだ。おどおどしてるのが面白くてからかうの楽しいし!だから、ああ言って貰えたのは、嬉しかったよ。」

樹「…八夂ちゃん…」

ちょっと一言、余計かな…。

一「…だから、樹力ちゃんがちゃんと言ってくれるまで待つよ。友達だし!無理に言わせても後味悪いし。…でも、話せる時がきたら、ちゃんと言ってよ?約束ね!えへへっ」

樹「…うん!わかった。ありがとう!」

子どもの頃によくやっていたであろう、『ゆーびきりげんまん、うーそついたらはりせんぼんのーますっ!』という約束の呪文を、小指を重ね、笑いながら、か細い声で2人で唱えた。

一「えへへ、樹力ちゃんにだけ針千本飲ましちゃうのは可哀想だし、じゃあ私も、なにかしようかな」

樹「なにかって?」

一「…うーん…あ、そうだ!はい、これ。」

八夂ちゃんは耳にある、星が流れているように見える綺麗な虹色のイヤリングをとり、ハンカチで一通り吹いた後、私の手を強引に掴み、手のひらに置いた。

一「友達の証ってやつ!あげるよ。」

樹「ええっ!?いいの?これ、大切なんじゃ…?」

一「いいのいいの。あ、いらなかったら捨ててもいいからね。どこにでも売ってるから、それ。」

樹「捨てないよ!?だって…」

あの時遠く見えたイヤリングが、今ではこんなに近くにある。白銀に包まれた虹色の石の中は、流星群のように星が流れている。廻り廻って。止まることなく、ずっと。ずっと。

何分見ても飽きない不思議な魅力が、何故かこのイヤリングにはあった。そんなものを捨てるはずがないし…

樹「…友達の証、なんでしょ?なら、尚更捨てないよ!」

一「あはは、そっか。樹力ちゃんならそう言ってくれると思ったよ!」

また、私たちはお互い笑いあった。まだ話せてないことはいっぱいあるけれど、八夂ちゃんとは、本当の友達になれそうな気がする。そのためにもまず、私のやるべきことをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

風が吹かない、太陽の光もないはずなのにどこか明るい場所で、影は1人佇んでいた。孤独に、1人で。

誰をも近寄らせないその影は、独り言でなく、誰かに対して、こう言った。そこには誰もいないのに。でも、誰かに聞いてほしくて。

「…Time wouldn’t stop」


…時は、止まることを知らない。

チクタクと、針はずっと動いている。止まることなく、永遠に。

「…止められるものなら止めてみせてよ」

影が喋った言葉は、なにかに対して挑戦を求めた、いわば挑戦状だった。

スッと影は消えた。消えてしまった。足跡も、なにもかも。