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不定期更新しますですー

アホ猫とペテン羊

それは遠い遠い昔のお話。

あたしとナイトメアが出会う頃の出来事……。

少し寒い、曇り空のとある日、1人でちょっとした旅をしていたあたしは、とある街に行き着いた。

街の人たちは、ゾンビみたいにフラフラしていて、どいつもこいつもみんな目の下に隈があった。

あたしは街の住人たちになにがあったか聞いた。そしたら「悪夢をみるんだ。とてもとても怖い悪夢を」という答えしか聞けなかった。

1人2人くらいならともかく、街の人間全員が一斉に悪夢を見るなんておかしい。おかしすぎる。

そう思ったあたしは、人間を助けるため…というわけではないが、原因を探るため、辺りそこら中、手掛かり探した。

そして、色々調べているうちに、ついに元凶に辿り着いた。

白髪で、前髪が少し黒い、つり目の、あたしより小さい子供の仕業だった。

「……」

つり目の子供は、木の上に座っていた。そして、寝不足なのか、目が虚ろで、ボーッとしていた。だが、あたしの存在に気がつくと、目に光が入り、どこかにいっていた目はすぐあたしの方に視線を向けた。

「あ?誰だてめぇ」

見た目に反して、口はかなーり悪かった。

「あたしはっ…‼︎…えーと?」

そういえばあたしは今の今まで名前で呼ばれてたことがなかった。というか気にした事がなかった。

あたしが旅している理由、それは…

…あたしは物心ついた時から、暗い暗い山のほら穴で眠っていた。それ以降の事はなんにも思い出せなかった。だから自分自身を知るため、旅をしている。

「うーん、わからんにゃ。名前にゃんてないからにゃ、あたし」

「はぁ?名前がない?んなわけねーだろ」

…むぅ、うるさいにゃね。仕方ないじゃにゃいか…本当にないんだし。

「てかにゃーにゃーうるせぇよお前。アホ猫ー」

「にゃあ⁉︎」

く、口癖の事は突っ込まないで欲しい。どんなに冷静に頭の中で話す言葉を考えていても、結局最後は「にゃ」がついてしまうのにゃ。何故か。あ、また…

「…むー!てか、アホ猫ってなんにゃ‼︎」

「ウケケケ‼︎だって見た目からしてアホっぽいもんお前ー‼︎」

見た目からして…アホっぽい……

あたしはショックのあまり足を崩した。

だがその隙に白髪の子供はあたしの背後に回っていた。

「ひっ…⁉︎」

「…ウケケ」

足を崩して座っているあたしを、小さい子供は嘲笑うかのように見ていた。あたしはブルブルと震えていた、

あたしは、何故かは知らんが、誰かに背後に立たれるのが少し怖い。
そして更に背中を押されると、奈落の底に落ちてしまうんじゃないかと思うくらい、頭がおかしくなってしまうほど怖い。怖くて仕方が無い。頭が潰れるように痛い。

「…やっぱな。おめぇが…」

「…?」

子供は「なるほどな」と納得したような顔をすると、ウケケケと嗤った。

「な、なんにゃ?どういうことにゃ?」

「知らなくていーぜ?じゃあなー」

子供はウケケケと笑いながら手を振ってその場を去ろうとした。だが、あたしはそれを逃さなかった。

「待つにゃ‼︎お前が悪夢見せてる犯人なんにゃろ⁉︎変な魔法使って‼︎」

「あー?そうだとしたらなんだよ?なんか文句あんのか?」

あるに決まってるにゃろ‼︎

「大アリにゃ‼︎みんなを困らせて、苦しめて、なにがしたいんにゃ、お前は‼︎」


「……っ。なにがしたい?なにがしたいんだ?……僕は。」

「…え?」

子供はまた目が虚ろになり、視線がどこかへ行っていた。

「…はっ。いけないいけない。」

子供は首をフルフルさせて、今さっきの事がなかったかのようにはっきりと答えた。

「別に、なんだっていいだろ?理由なんて。じゃあお前は何で人間たちを助けようとするんだ?」

…むぅ。聞いてるのはこっちなのに。逆に聞いて来たにゃね。よくあるお話の仕方にゃ。むー。

「…あたしにも、よくわからないにゃ。」

「はぁぁ?」

「…ただ、なんか、本能的にそうしちゃうんにゃよ。」

「…本能?」

「…なんだかにゃあ、うまく言いにくいが、困ってる奴らを見ると放っておけないんにゃ。…とくに、理不尽な理由で苦しめられている奴らとか。」

……理不尽な理由で苦しめられている奴ら。それはこの子供に苦しめられている人間たちを指す。

「…くっだらねぇな。実にくだらねぇ。」

「…だろうにゃ。あたし自身も実は少しそう思うにゃ。けど、仕方ないんにゃ。体が勝手に動いちゃうんだから。」

あたしは、曖昧な答えを、子供に、はっきりと目を見てそう言った。すると、

「…可哀想な奴。…本に縛られてやんの。…俺も人のこと言えないけれど。」

「…本に縛られる?」

意味不明なワードがでてきた。本に縛られるって…?どういうこと?あたしはなにかに縛られている?『本に縛られている』…なんの本に?ううむ…駄目にゃ、考えてもわからん…

「…なんでもねー。じゃあな。」

子供は、今度は羊の姿に変身して、飛んでどこかに行こうとした。こいつもなにかしらの動物に変身できるのか…。あたしも猫に変身できるが…。って、んな事考えている場合じゃない!

「おい‼︎待つにゃ‼︎話は終わってないにゃ‼︎‼︎」

あたしは飛べないけど、必死にヤツを追いかけた。叫びながら。

「うるせぇヤツだな。安心しろよ、しばらくは悪夢見せないからー。」

「ほ、本当かにゃ?」

「本当、本当ー。じゃなっ!…あ、そうそう」

「あ?」

「…俺は…ナイトメア。んで、お前の名前はカーネってことにしておけ。名前の意味は自分の力を使えばわかる。んじゃなー」

羊はまた意味不明なワードを残し、見えないくらいの猛スピードで飛び去っていった。

あたしは、さすがに追いつけないので、もう諦めることにした。

「…むぅ。」

…色々とよく、わからないけれど。
…カーネ…ま、悪くないかにゃ。なんで名前をつけてくれたかは知らないけど…にゃふふ。

…ま、許す訳じゃないが、名前をつけてくれた事は感謝してやるのにゃ。

もしかしたらあいつ、根は悪いヤツじゃないのかも?ただ悪夢を見せてるのは構って欲しいだけなんじゃにゃいか?そう思うと可愛いヤツにゃねー、あははっ。









……その夜の事。あたしは氷に閉じ込められる悪夢を見た。更に、あの羊に背中を押される夢も見た。

更に、翌朝、街の住人たちの具合は更に悪くなっていて、「昨日より更に恐ろしい悪夢を見た」…と。


……………………………。

あたしは、あの羊に聞こえるくらい大声で叫んだ。

「こんのペテン羊がぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」